こんにちは。まんまでございます。
飛行機内でのドクターコールは国際線で約600フライトに1回…というような
データを見たことがあります。
飛行時間が短い国内線はもう少し稀かも知れません。
そんな中、わたくしが遭遇したドクターコールを紹介させていただければと存じます。
ある冬の、中部国際空港発新千歳空港行きの飛行機内でのことです。
最前列に座っていたので、何やら乗務員の方々が慌ただしく相談し合っているなあと
眺めていたのを記憶しています。
もしかしたらドクターコールか?まさかなあと呑気に考えていたら、はたして医療関係者を募る機内アナウンスが流れてきました。
救急医療の経験が豊富というには恐れ多い状況でしたが、こんな時のために医師になったはず…と我さきに乗務員の方に声を掛けさせていただいたところ、「後方にお座りのお客様が、気分が悪いと仰っておられます。みていただけますでしょうか?」とのことでした。どうやら超緊急事態という訳ではないかなと少しほっとしたのも束の間、乗務員の方と連れ立って機内を移動し始めたところ、視界の先になんとなく一般人というには憚られる、そちら系のコワモテの方がお二人ほどお座りになり、お一人が隣に座るもう一人を介抱しているような…。
まさかあのお方たちではあるまい、と祈る様に歩いていましたが、どうやら気分が悪いというのはそちら系のお二人組の片方の方で、改めて見ると顔には無数の傷跡が…。
戦国時代なら武勇の誉れ、切られた傷は主君を守るために奮戦した忠義の甲冑と言ってもいいのかも知れませんが、ここは現代、そのようなお顔をされている方はどんな職業なのかなあと邪推してしまいます。
必死で冷静を装い、まずは緊急性の判断。幸い呼吸状態は安定し、目がうつろではあるも、受け答え可能、見当識障害もなく、極めて簡単な診察ではありましたが脳障害もなさそうでした。
機内では聴診器は騒音のため使えないと聞いていましたが、それでもバイタルサインは是非確認しようと水銀血圧計をお借りし腕をまくったら…若者がお洒落でするようなTATTOというより、倶利伽羅紋紋を彷彿させる、触るのも恐れ多い大層ご立派な彫物が目の前に飛び込んできました。「やはり出たか…」と妙に納得してばかりはいれません。「こちら、触らせていただいてもよろしいでしょうか? 失礼いたします!」と、慇懃に確認してから血圧測定に入らせていただきました。ただでさえ、機内は騒音のため聴診器が大変使いにくいところ、このような状況ですので、わたくしの顔を相当ひきつっていたと思います。
お連れの方が仰るには、名古屋市内で足を滑らせて頭を打った、直後は大丈夫だったけど、飛行機に乗ったら調子が悪くなったとのこと。まさか妙な薬は使ってないですよね?などと確認する余裕などなく、「全身状態は問題ないようです。気圧の低下による一時的な体調不良でしょうか。頭を打ったあと1ヶ月以上経ってから急に異常が出る場合もありますので、この後も気を付けてください。」と説明すると、とても安心して下さったので、そそくさとその場を後にしました。
乗務員の方には所見をまとめたメモをお渡しし、「急変したらすぐ呼んでください」と伝えもとの座席に座りました。
本音は、どうか何も起こりませんように…と祈っていたのは言うまでもありません。
そんな祈りが天に通じたのか、その後何事もなく新千歳空港に着陸、順調に駐機場に到着、いつも通りのタイミングでドアが開いたので、「例の患者さんは大丈夫そうでしょうか?」とお尋ねし、一応許可を得てから降機しました。
その後しばらくして、ANAからお礼の手紙と1万マイルが送られてきました(座席とAMC会員番号から氏名や住所を判断したようです)。
2020年7月現在、ドクターコールは後にも先にもこの一件のみです。
これからもたびたび飛行機を利用すると思いますが、次回はいつ、どんな患者さんに巡り合えるのか期待半分不安半分です。